年金制度は、高齢者になれば誰もがお世話になる社会保障制度ですが、その内容について詳しく理解している人はあまり多くはありません。
日本の年金制度は、国民年金・厚生年金からなる「公的年金」、国民年金基金やiDeCoなど任意加入の「個人年金(私的年金)」、企業型確定拠出型年金(企業型DC)などの「企業年金」の3つからなります。
老後資金の形成においては、これらの年金制度の違いについて理解しておき、自分自身や家族が老後に送りたいライフスタイルに合わせて個人年金の活用を検討していくようにしましょう。
この記事では、公的年金・個人年金・企業年金の違いやメリット、被保険者ごとの年金制度の違いについて解説していきます。
日本の年金制度には公的年金・個人年金・企業年金の3つの制度がある
日本の年金制度は、大きく分けると公的年金・個人年金・企業年金の3つの制度に分けられます。
公的年金とは、社会保障として国が実施している年金制度のことで、自営業・フリーランサーなどの第1号被保険者向けの「国民年金」、サラリーマン・公務員など第2号被保険者向けの「厚生年金」からなります。
公的年金は、日本の年金制度の基本となるものであるため、老後資金の形成を考える上でも必ず押さえておくようにしましょう。
個人年金(私的年金)とは、公的年金に上乗せして支給される年金で、国民年金の上乗せとなる「国民年金基金」や「付加年金」、近年話題となっている「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などがあります。
個人年金は、公的年金について理解した上で、自分自身や家族が加入するかどうかを決めるようにしましょう。
企業年金とは、「企業年金」や「企業型確定拠出型年金(企業型DC)」など、福利厚生として企業が独自に実施している年金のことです。
年金制度 |
公的年金 |
個人年金 |
企業年金 |
概要 |
国が実施している年金制度 |
公的年金に上乗せする年金 |
福利厚生として企業が独自に実施している |
具体的な制度 |
国民年金、厚生年金 |
国民年金基金、付加年金、iDeCoなど |
企業年金、企業型確定拠出型年金(企業型DC)など |
強制/任意 |
強制 |
任意 |
企業による |
被保険者ごとの年金制度の違いと注意点
「自分や家族は、どの年金制度を利用できるのだろう?」という疑問が出てきたときには、日本の年金制度における「被保険者」について理解しておく必要があります。
日本の年金制度では、働き方によって、「第1号被保険者」「第2号被保険者」「第3号被保険者」の3つの被保険者に分類され、それぞれ加入する公的年金、利用できる個人年金が異なります。
第1号被保険者とは、20歳以上60歳未満の自営業やフリーランサー、学生、厚生年金が適用されていない被用者、無職者の方など、第2号被保険者や第3号被保険者とならない方が該当する被保険者です。
第1号被保険者の公的年金は「国民年金」となり、国民年金の上乗せとして「国民年金基金」や「iDeCo」などの個人年金に加入することができます。
第2号被保険者とは、70歳未満のサラリーマンや公務員の方が該当する被保険者です。
第2号被保険者の公的年金は「厚生年金」となり、「iDeCo」などの個人年金でさらに上乗せすることが可能なほか、企業によっては「企業型確定拠出型年金(企業型DC)」などの企業年金を実施している場合もあります。
第3号被保険者とは、第2号被保険者(サラリーマンや公務員)に扶養されている20歳以上60歳未満の配偶者(専業主婦・専業主夫、事実婚も含む)の方が該当する被保険者です。
第3号被保険者となる要件としては、年収が130万円未満であり、かつ、配偶者の年収の2分の1未満であることとされています。
第3号被保険者の方は、配偶者が加入している年金制度による負担で保険料を払う必要はありませんが、公的年金は「国民年金」となることには注意が必要です。
被保険者別に加入できる公的年金・個人年金・企業年金は次のようになっています。
被保険者 |
第1号被保険者 |
第2号被保険者 |
第3号被保険者 |
働き方 |
自営業・フリーランサー、学生など |
サラリーマン・公務員 |
専業主婦・専業主夫 |
公的年金 |
国民年金 |
厚生年金 |
国民年金 |
個人年金 |
国民年金基金、iDeCo、付加年金 |
iDeCo |
iDeCo |
企業年金 |
- |
企業型DC、企業年金など |
- |
被保険者と年金制度については、次の厚生労働省の画像イメージも参照してみましょう。
全ての年金制度の基本には、国民年金(基礎年金)があります。
サラリーマン・公務員(第2号被保険者)は厚生年金や企業年金による2階建て部分がありますが、自営業・フリーランサー(第1号被保険者)は基礎年金の1階建て部分しかないため、2階部分として個人年金として国民年金基金やiDeCoが用意されています。
公的年金とは
公的年金について、基本となる「国民年金」と「厚生年金」、また受給年齢によって年金受給額が変わる「繰り上げ受給と繰り下げ受給」についても押さえておきましょう。
国民年金と厚生年金
公的年金には、自営業・フリーランサーなどの第1号被保険者が加入する「国民年金」、サラリーマン・公務員が加入する第2号被保険者向けの「厚生年金」があります。
年金と言うと、65歳以降の高齢者になると受け取れる「老齢年金」のことを一般的には指しますが、重い障害を負った場合に受け取れる「障害年金」、家計の担い手がなくなった際に残された家族が受け取れる「遺族年金」もあります。
国民年金と厚生年金では、老齢年金・障害年金・遺族年金のそれぞれが異なることには注意が必要です。
公的年金 |
国民年金 |
厚生年金 |
老齢 |
老齢基礎年金 |
老齢厚生年金 |
障害 |
障害基礎年金 |
障害厚生年金 |
遺族 |
遺族基礎年金 |
遺族厚生年金 |
繰り上げ受給と繰り下げ受給
公的年金の老齢年金は、国民年金・厚生年金ともに65歳から支給されることになっています。
65歳より早く受け取れる「繰り上げ受給」、65歳以降に持ち越して受け取る「繰り下げ受給」もあり、年金を受け取る年齢を変えることで受給額が変化する仕組みです。
繰り上げ受給すると、65歳より若い年齢から年金を受け取れる一方で、1ヶ月早くすることで月-0.4%減額され、60歳から受け取ると年金額が-24%減となることには注意が必要です。
繰り下げ受給すると、65歳より後に年金受給を引き延ばすことになりますが、1ヶ月遅く受給すると月+0.7%増額となり、70歳から受給すると+42%増額、75歳から受給すると+84%増額となります。
個人年金とは
個人年金は、国民年金の上乗せとして自営業・フリーランサー(第1号被保険者)が加入できる「国民年金基金」「付加年金」、国民の誰でも加入できる「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などがあります。
国民年金基金と付加年金
自営業・フリーランサー(第1号被保険者)の国民年金の2階建て部分としては、「国民年金基金」と「付加年金」があります。
国民年金基金は、国民年金に上乗せして支給される制度で、1口目は終身年金、2口目以降は終身年金か確定年金を選択して加入できるものです。
付加年金は、国民年金に上乗せして保険料を払うことによって、国民年金の支給額が増加するもので、月額400円を払うことで年金保険料に200円加算されます。
なお、国民年金基金と付加年金は同時加入できないことには注意が必要です。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、節税対策をしながら老後資金の形成ができる方法として話題となっている個人年金制度です。
iDeCoは、第1号被保険者から第3号被保険者まで誰でも加入できますが、次のように掛金の上限は異なるため注意しておきましょう。
iDeCoの掛け金 |
第1号被保険者 |
第2号被保険者 |
第3号被保険者 |
掛け金の年額(月額)上限 |
年81.6万円(月6.8万円) |
年27.6万円(月2.3万円) |
年27.6万円(月2.3万円) |
※出典:厚生労働省
また、iDeCoは自分自身で運用商品を選ぶ必要があり、口座維持手数料も発生することには注意が必要です。
企業年金とは
企業年金には、企業独自の「企業年金」や「企業型確定拠出型年金(企業型DC)」、「中小企業退職金共済」などがあります。
企業年金では、加入者が掛け金を拠出できるマッチング拠出も可能となっています。
企業型確定拠出型年金(企業型DC)は、企業型DCのみに加入している場合は年66万円(月5.5万円)まで、企業型DCと企業年金に同時加入している企業の場合は年33万円(月2.75万円)まで拠出可能で、またiDeCoとの同時加入も可能です。
企業年金について詳しくは、自分自身が加入している会社の人事や総務担当者へ照会するなどして調べてみるようにしましょう。
年金制度は加入している公的年金を押さえた上で個人年金・企業年金を考えてみよう
この記事では、公的年金・個人年金・企業年金の違いやメリット、被保険者ごとの年金制度の違いについて解説してきました。
年金制度を理解する上では、自分自身が、自営業・フリーランサーなどの第1号被保険者、サラリーマン・公務員の第2号被保険者、専業主婦(主夫)の第3号被保険者の、どの被保険者に属するかを確認することが重要です。
年金制度で基本となるのは、公的年金である「国民年金」と「厚生年金」です。
自営業・フリーランサー(第1号被保険者)の方は、国民年金の上乗せとなる個人年金として、「国民年金基金」や「付加年金」、「iDeCo」に加入することで国民年金の2階建て部分にすることができます。
サラリーマンや公務員の方は、企業年金の「企業型DC」や、個人年金の「iDeCo」を活用することによって、厚生年金に加えて年金を充実させることが可能です。