会社を経営してます。税金対策として生保に加入してますがそれ以外に株価を下げる方法はないですか?

会社を経営している方が相続・事業承継を考える場合、自社株対策は大きな課題です。 税金対策として有効な方法の1つに生保(生命保険)の加入がありますが、それ以外にも株価を下げる方法は複数あります。 この記事では、自社の株価の算定方法を理解した上で、株価を下げる方法についても紹介しています。 後継者へのバトンタッチを考えていて、生保の加入以外の税金対策を探している経営者に役に立つ内容です。

目次

株価を下げることは相続・事業承継時の税金対策の1つ

相続・事業承継を目的として、自社の株価を売却すれば所得税や法人税などがかかり、親族内事業承継で生前贈与や相続をする場合でも、贈与税や相続税がかかります。

 そのため、自社の株価を下げることは、相続・事業承継を実施する際の税金対策の1つと言えます。

主な自社株対策の方法

自社株対策とは主に、

  1. 税金対策として株価を引き下げる対策(株価引き下げ対策)
  2. 納税資金対策
  3. 遺産相続対策

などの問題を解決することを言います。
これらの自社株対策が必要な理由、及び、生保に加入する方法を除いた株価の引下げ方を紹介します。

自社株対策が必要な理由

各項目について、自社株対策が必要な理由は次の通りです。

❶ 株価引き下げ対策

企業は自社の業績を向上させ、顧客や消費者、従業員、取引先などに価値を提供するために事業活動を行っています。

そして、企業の業績が向上すれば、株価は上昇します。本来は、業績が向上することで自社の株価が上昇することは好ましいことです。

しかし、相続・事業承継の場面では、所得税や相続税・贈与税が高額となり、円滑なバトンタッチの妨げになってしまうのです。

そこで、相続・事業承継の場面では、自社株の価格を下げる対策が必要になります。

❷ 納税資金対策

非上場の株式は換金性が低いため、株価を下げたほうが納税資金を確保しやすくなります。

❸ 遺産相続対策

自社株以外の相続以外の相続財産がない場合、相続や贈与で後継者が自社株を集中的に相続すると、他の相続人から遺留分※1)を侵害しているとして遺留分減殺請求※2)をされる可能性があります。

したがって、後継者以外の相続人に対して遺留分を侵害しない、自社株以外の財産を準備しておく必要があります。

自社の株価が低ければ、相続人の遺留分も少なくなるため対策が立てやすくなります。

※1)民法に定められている、法定相続人に最低限認められる遺産取得分のこと
※2)遺留分を侵害された人が、他の相続人や受遺者(遺言によって財産を受け取った人)に侵害額を請求すること

ここで紹介した3つのケースは、自社の株価を下げることが有効な対策である点で共通しています。

まずは自社の株価算定方法を理解する

自社株対策として生保に加入をすると会社の利益が下がるため、株価も下がります。

生保の保険金は納税資金対策や、遺留分相続対策としても有効なので、生保の加入は自社株対策としてよく知られていますが、ここでは生保の加入以外で、自社の株価を下げる方法を紹介します。

まずは、取引相場のない自社の株価算定方法を知っておきましょう。

自社株の評価方法は、同族株主がいるかどうかで異なります。

同族株主とは

「同族株主」とは、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の30%以上の株主、及びその同族関係者のことです。

また、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には、50%超である場合は、その株主及びその同族関係者が同族株主になります。

この場合の「株主の1人」とは、納税義務者に限りません。

出典:国税庁 財産評価基本通達188(1)法人税基本通達1-3-5

中小企業の株価の評価をする場合、相続、贈与を受けた人が同族株主のときは、

  • 類似業種比準方式
  • 純資産価額方式

どちらか、またはその両方の方式を用います。
また、同族株主以外のときは、

  • 配当還元方式

を用います。

類似業種比準価額方式

会社の収益力に着目する評価方法で、評価する会社と事業内容や規模が同等の株価を参考に評価額を決定します。

純資産価額方式

会社の資産価値の着目する評価方法で、評価する会社が仮に解散をした場合に株主に分配される正味の財産価値で評価します。

配当還元方式

株主に還元される配当金に着目する評価方法で、過去2年の平均配当を10%の利率で還元して、株式の価額を計算する方法です。

自社の株価算定方法を理解した上で、以下、類似業種株価の株式評価、及び純資産株価を引き下げる方法を紹介します。

類似業種株価の株式評価引き下げ方法

株式評価引き下げ方法には以下のものが挙げられます。

役員報酬を引き上げる

役員報酬、あるいは給与を引き上げることで会社の利益が圧縮されるため、株式評価を引き下げることができます。

ただし、受け取る側の所得税や住民税の負担が増加する可能性があるので注意が必要です。

また、役員報酬の引き上げは株主総会での決議が必要になります。

退職金を払う

経営者の退職時に退職金を払うことで会社の財産が減少するため、株価を下げる効果が期待できます。

配当金を下げる

類似業種比準価額方式を計算する際には、株主の配当金も関連するため、配当金を下げることで株式評価を下げることができます。

不良債権の計上

簿価純資産を下げることで株式評価を引き下げることができます。

主な方法として、含み損を抱えている資産の売却や、不良債権の貸し倒れの実施があります。

純資産株価の引き下げ方法

純資産株価の引き下げ方法には以下のものが挙げられます。

純資産を減らす

これまでの内部留保や土地・有価証券などの含み益が大きいと株価が高く評価されるため、含み益のある資産を切り離す、あるいは、借入金によって純資産を減らすなどの方法があります。

例えば、借入金によって賃貸不動産を購入すると、会社が課税時期前3年以内に取得した不動産は時価で取引されますが、借入金を利用することで純資産を減少させることが可能です。

3年経過後は、土地は路線価や倍率方式、建物は相続税評価額されるようになりさらに純資産価額が減少します。
また、土地は貸家建付地、建物は貸家として評価が減少します。

発行株式数を増やす

純資産価額方式は、相続税評価をした純資産を発行済株式で割ることで算出します。

そのため、社内で持株会を組成したり、第三者割当増資を行ったりすることで発行済株式数を増やすと株価を下げることが可能です。

事業承継税制の活用

事業承継税制とは、後継者が非上場株式の株式や、個人事業者の事業用資産を贈与・相続によって取得した場合、都道府県知事の認証を受けることで相続・贈与税の納税が猶予、あるいは免除される制度です。

納税猶予を受けるための会社の主な要件

  1. 中小企業であること
    1. 業種ごとに中小企業と認められる基準が決まっていて、資本金や従業員数の要件を満たしている必要があります。
      (例:製造業その他-資本金3億円以下または、従業員が300人以下)
  2. 従業員が1人以上であること
  3. 総資産にしめる非事業用資産の割合が一定以上である資産保有型会社等に該当しないこと

先代経営者の主な要件

  1. 会社の代表者であること
  2. 贈与・相続の直前において、現経営者、及びその親族で総議決権の過半数を保有し、かつ、この中で筆頭株主であったこと
  3. 【贈与税のみの要件】贈与時に代表者を退任していること

後継者の主な要件

  1. 贈与・相続の直前において、後継者、及びその親族で総議決権の過半数を保有し、かつ、この中で筆頭株主であること
  2. 【相続税のみの要件】相続開始直前で役員の地位にあり、相続開始から5ヶ月後に代表者となること
  3. 【贈与税のみの要件】贈与時に20歳以上、贈与の直前において3年以上、役員の地位にあり、かつ、代表者であること

納税猶予を受けるためには、都道府県知事の認定及び、税務署への申告手続きが必要です。

まとめ

中小企業の経営者が事業を後継者にバトンタッチするときに直面する大きな問題の1つが自社の株価対策です。
生保を活用した税金対策はよく知られていますが、その他にも活用できる方法は複数あります。

事業承継税制の活用も有効です。
また例外ですが、M&Aで赤字会社を買収して株価を下げる方法もあります。

自社の株価算定方法を理解して、適切な税金対策を行っていきましょう。

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