遺産分割問題のうち約8割が遺産価額5,000万円以下の案件となっており、争族は決して他人事ではありません。
争族に至る主なケースを理解して、当てはまる場合は事前に対策を立てておきましょう。
相続でもめるかもしれないと不安な方、円満に相続をする方法を知りたい方はぜひ最後までお読みください。
なお当記事では、少々「争族」という言葉を多く使っているように感じるかも知れません。
しかしこれはあくまでも対策についてわかりやすくお伝えしたいと考えた結果であり、極端に不安をあおる意図はないことをご了承下さい
相続が争族になることは誰にでも起こりうる
相続人全員で、遺産の分け方を話し合うことを遺産分割協議といいますが、最高裁判所の司法統計年報家事事件編によると遺産分割協議の件数は、令和2年度では減少しているものの、おおよそ年間1万2,000件~1万3,000件発生しています。
【遺産分割協議の件数】
年度
平成28年度
平成29年度
平成30年度
令和元年度/平成31年度
令和2年度
また、争族は裕福な家庭で起こるものというイメージを持つかもしれません。
しかし、遺産価額別にみると、遺産分割事件は遺産価額5,000万円以下の案件が8割を占めています。
【遺産価額別の遺産分割事件の割合】
遺産の価額
1,000万円以下
5,000万円以下
1億円以下
5億円以下
5億超
査定不能・不詳
このことから、遺産分割協議は誰にでも起こる可能性があり、争族は裕福な家庭だけで起こることではないと考えることができます。
【争族になるケース】
さまざまなパターンがありますが、争族に繋がりやすい主な事例を5つ紹介します。
[相続財産の多くが不動産]
例えば相続財産が自宅以外にほとんど無いような場合、相続になる可能性は高いでしょう。
被相続人(亡くなった人)に配偶者がいれば配偶者が相続することで、あまり問題は起こりません。
しかし配偶者が亡くなり、複数の子どもが相続人となる場合、それぞれに法定相続分があることから、一つの不動産をめぐり子ども同士で争いが起こることがあります。
[前妻との間に子どもがいる]
前妻との間に子どもがいるような場合もトラブルになりがちです。
これは、被相続人の前妻との子どもも相続人となることができるためです。
これまで家族同士で遺産分割協議をするものと思っていたら、ほとんど知らない前妻との子どもが突然相続人として名乗り出てくれば、家族の相続分がより減少するためトラブルに発展する可能性は高いと言えるでしょう。
[特定の相続人が被相続人を介護していた]
生前に特定の相続人が被相続人の介護をして、一定の貢献をしていたような場合、「寄与分」として金額に換算して上乗せできる場合があります。
しかしこうした寄与分は、客観的に金額で表すことは難しく、他の相続人の相続分が減ってしまう要因となるため、トラブルに繋がりやすくなります。
[特定の相続人だけが生前贈与をうけていた。]
教育費を負担してもらった、住宅ローンの頭金を負担してもらった場合など、特定の相続人だけ、生前贈与を受けた場合、特別受益とあつかわれ遺産をすでにもらったものとして相続分から差し引かれます。
ただ特別受益は明確な基準がないため、相続時にトラブルになる可能性が高い傾向があります。
[夫婦間に子どもがいない]
夫婦間に子どもがいない場合、両親が相続人になり、両親がいなければ祖父母が相続人になります。
さらに上の世代もいなければ、今度は被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
被相続人の配偶者からすれば、義理の兄弟姉妹と遺産相続と話し合いをしなければならず、トラブルに発展しやすくなる可能性があります。
争族にならないために取るべき対策
争族にならないために、事前にできる対策を紹介します。
【相続人を確認しておく】
先に述べたように、前妻との間に子どもがいた場合や、子どもがいなかった場合、実際に相続が発生すると想定外の相続人が現れる可能性があります。
自分に万が一のことがあったとき、相続人が誰になるのか、あらかじめ確認しておきましょう。
【遺言書を書く】
争族を避けるために最も有効な手段は遺言書を書くことです。
遺言書とは、遺産を誰にどれくらい残すかという意思を示すもので、遺言書に書かれている内容は遺産分割協議より優先されます。
遺言書は、遺産分割方法を決めた理由や、家族への思いを記述する付言事項という項目もあり、遺産分割にあたって家族の納得も得やすいというメリットがあります。
遺言書の種類は公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類です。
[公正証書遺言]
遺言書を公証人に作成してもらう遺言書です。
公証人が作成するので、無効になるリスクがない、公証役場で保管されるので紛失や隠蔽を避けられる、争いが起こりにくいメリットがある反面、費用がかかる、証人が2人いなければならないデメリットがあります。
[自筆証書遺言]
遺言者自身が自らの書く遺言書です。
筆記用具や書く用紙に決まりはありません。
手軽に作成できて費用がかからない反面、作成したものの誰にも発見されない、他人に改ざんされやすい、遺言書としての要件を満たしておらず無効となる可能性があるなどのデメリットがあります。
遺言書を法務局で管理・保管する遺言書保管制度を利用すると、書いた自筆証書遺言が遺言書としての形式を満たしているか確認してもらえるうえ、紛失、改ざんを防止できます。
ただし、一部の相続人には遺留分という制度によって最低限相続で保証されている割合がきまっていて、遺言書の内容が遺留分を侵害するような場合、遺留分の侵害分を請求されて争族に繋がる可能性が高くなるので注意が必要です。
[秘密証書遺言]
内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証役場で認証してもらう遺言書のことです。
遺言書の内容を知られることがないメリットがありますが、内容が無効になりやすい、紛失しやすい、費用がかかる、証人2人が必要になるなどのデメリットがあります。
実務では、あまり用いられていない方式です。
【生命保険を活用する】
相続財産に不動産しかなく、相続人が複数いる場合は生命保険の活用が有効です。
仮に相続人A,B,Cの3人がいる場合、Aには不動産を相続して、B、Cには同等の保険金を残す内容の生命保険に加入しておけば、不平等は生じなくなります。
【生前贈与を活用する】
財産を生前に贈与しておけば、相続時の財産が減少するため、相続人間のトラブルが起こりにくくなります。
また、渡したい相手に確実に財産を渡すことができます。
遺言書の付言事項で遺産分割方法を決めた理由を残すより、生前に直接贈与の理由なども伝えたほうが、利害関係者同士のしこりは少なくなる可能性があります。
まとめ
争族は裕福な家庭で起こるものというイメージがありますが、実際は遺産分割事件のうち約8割を遺産の価格5,000万円の案件が占めています。
相続財産の多くが不動産、前妻との間に子どもがいるなど、自分が相続でもめる可能性を感じたら、事前に対策を立てておきましょう。
自分だけで対策をたてることが難しい場合は、悩んでそのままになってしまうよりも専門家に早めに相談することが大切です。