世界的に平均寿命が延びて「人生100年時代」が到来しつつある昨今、世界各国のリタイアメント年齢も上昇しつつあります。
日本でも、政府が企業に70歳まで定年雇用することを努力義務化しており、生涯現役で働き続ける高齢者も増加中です。
ただ、世界的に少子高齢化が進んでいることから、定年年齢が上昇すると同時に年金受給年齢も引き上げられており、老後資金の形成は避けては通れないものとなっています。
この記事では、世界各国のリタイアメント事情の国際比較を紹介した上で、リタイアメントに向けたベストプラクティスについて解説していきます。
世界各国のリタイアメント事情
日本では、2021年4月1日から、企業が労働者を70歳まで定年雇用することを努力義務化しています。
ただ、厚生労働省の「令和4年「高年齢者雇用状況等報告」」によると、70歳までの高年齢者就業確保措置を実施済みの企業は27.9%となっており、多くの企業では定年年齢が65歳のままです。
※出典:厚生労働省
日本のリタイアメント事情を踏まえた上で、世界各国のリタイアメント事情を見ていきましょう。
世界各国の定年事情
先進主要国の定年年齢は、次の表のようになっています。
国 |
日本 |
アメリカ |
英国 |
ドイツ |
フランス |
定年年齢 |
65歳 |
定年なし |
定年なし |
65歳 |
65歳 |
補足 |
企業は70歳定年に努力義務化 |
退職予定年齢は64歳 |
退職年齢のピークは64~65歳 |
2029年までに67歳に引き上げ |
2029年までに67歳に引き上げ |
アメリカでは、年齢による差別が禁止されていることから定年年齢はありませんが、民間調査会社によると2021年のアメリカの退職予定年齢は64歳となっているようです。
※出典:日本経済新聞「米国の退職予定年齢、1.4歳上昇 老後の見通し厳しく」
英国では、2011年10月以降に定年退職年齢は廃止されましたが、退職年齢のピークは女性64歳、男性65歳となっています。
※出典:厚生労働省
ドイツでは、定年年齢は65歳となっていますが、2012年から2029年にかけて段階的に67歳に引き上げられることが決まっています。
※出典:厚生労働省
フランスも、定年年齢は65歳となっていますが、2016年から2029年にかけて段階的に67歳に引き上げられることが決定済みです。
※出典:厚生労働省
先進各国の定年年齢は、定年がないアメリカ・イギリスを含めても65歳前後となっていますが、各国ともに少子高齢化の影響で実質的な定年年齢が引き上げられている傾向にあります。
世界各国の年金制度事情
定年制度と並んでリタイアメントにおいて重要なのが年金制度です。
先進主要国について、「年金支給年齢」に加えて、年金支給年齢に影響を与える「高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)」、「出生率(女性1人が産む子供の人数)」、「人口増加率(人口増加割合)」を見てみましょう。
国 |
日本 |
アメリカ |
英国 |
ドイツ |
フランス |
年金支給年齢 |
65歳~ |
66歳~ |
66歳 |
65歳11か月 |
62歳~ |
高齢化率 |
28.6% |
16.6% |
18.7% |
21.7% |
20.8% |
出生率 |
1.30人 |
1.66人 |
1.56人 |
1.53人 |
1.79人 |
人口増加率 |
-0.54% |
0.30% |
0.34% |
0.04% |
0.09% |
※「年金支給年齢」の出典:厚生労働省
※「高齢化率」「出資率」「人口増加率」の出典:国際連合「World Population Prospects」
先進主要国の年金支給年齢は、定年年齢と同じ65歳となっていますが、定年年齢の引き上げに伴って年金支給年齢も引き上げ傾向にあります。
先進主要国はいずれも高齢化率が高まってきており、出生率は人口の再生産に必要な2.08人(人口置換水準)より低く、人口増加率も低水準の数字が目立ちます。
その中でも、日本の高齢化率は主要国では最高水準となっている一方で、出生率は低く、人口増加率もマイナスで人口減少となっているため、今後の年金支給年齢の引き上げは不可避と考えざるを得ません。
世界各国で定年年齢・年金支給年齢は上昇している
ここまで見てきたように、少子高齢化が進展する世界各国では、定年年齢および年金支給年齢は上昇傾向にあります。
日本よりも少子高齢化の影響が小さいフランスやドイツであっても、定年年齢・年金支給年齢の引き上げとなっていることから、日本でも引き上げは不可避と考えるのが現実的です。
今後の日本では、高齢化率は上昇し高止まりする一方、年金制度を支える現役世代は減少していくことが人口動態上で確定しています。
※出典:厚生労働省
日本では、定年年齢について政府は企業に70歳まで努力義務化しましたが、次は年金改革の動きが起こることは時間の問題と見られます。
2022年10月には、国民年金の保険料納付期間を現行の60歳までから、64歳まで5年延長する案について政府が本格検討に入ったとのニュースが流れました。
2023年には、岸田政権の「異次元の少子化対策」について連日報じられていますが、子どもが生まれてから年金制度を支えるようになるまでは20年程度は掛かるため、異次元の少子化対策は年金改革への即効薬にはなりません。
現役世代が老後資金の形成を考える上では、今後の年金支給年齢の引き上げを考慮しておく必要があります。
リタイアメントのベストプラクティスとは?
リタイアメントに向けて現役世代が取るべきベストプラクティスの行動について押さえておきましょう。
できるだけ長く働いてQOLと老後資金を両立する
そもそも老後資金の問題とは、定年退職後の収入源が年金しかなくなってしまうことです。
これは逆に言えば、生涯現役でできるだけ長く働いて、給与収入の減少を防ぐことができれば、必要な老後資金はそれだけ少なくなることを意味します。
政府は企業に70歳まで定年雇用することを努力義務化していると同時に、働き方改革や副業推進、リカレント教育などで生涯現役として働ける制度も充実してきています。
また、生涯現役で働くことはお金の面でメリットになることに加えて、社会参加による健康促進や暇防止になるため、QOL(生活満足度)の面においても大きなメリットとなります。
NISAやiDeCoで資産運用して老後資金を貯める
金融庁が2019年に「老後資金2,000万円」問題を公表してから、非課税投資制度のNISAやiDeCoを使って資産形成を始める若い現役世代が増加しています。
NISAは2024年から大幅に拡充することが決まるなど、政府は投資による老後資金の形成を後押ししています。
投資にはリスクがあるため、全資産をNISA・iDeCoに投じるような資産運用は推奨できませんが、貯金感覚で老後資金を少しずつ積み立てる資産運用を始めてみてはいかがでしょうか?
若い内から合理的な節約の習慣を身に付ける
節約の習慣を身に付けることは、何歳になろうと役に立つ資産形成の基本です。
若い内はもちろん、労働収入が少なくなる高齢者になっても浪費癖が抜けなければ、貧困一直線になることは避けられません。
小さな自分へのご褒美や楽しい体験を我慢するといった過度な節約は体に毒ですが、家計簿をつける、最新情報や最新テクノロジーを駆使して支出を抑えるといった習慣は老後にも役立つことは言うまでもありません。
人生100年時代の到来に備えて、リタイアメント後の備えは早めにしておこう
この記事では、世界各国のリタイアメント事情の国際比較を紹介した上で、リタイアメントに向けたベストプラクティスについて解説してきました。
日本だけではなく、主要先進国では平均寿命の上昇や少子高齢化の影響から定年年齢が引き上げられる傾向にあり、同時に年金支給年齢も引き上げられています。
少子高齢化が深刻な日本でも、定年年齢は70歳までにすることが努力義務化され、年金支給年齢の引き上げをにおわせるニュースも少なくありません。
リタイアメントに向けたベストプラクティスとしては、生涯現役で働くようにする、NISAを利用した資産運用で老後資金を蓄える、合理的な節約の習慣を身に付けるなど、収入・運用・支出の3点を徹底することが挙げられます。
今後の日本では、年金支給年齢の引き上げは不可避であると考えた上で、リタイアメント後に向けた備えは早めにしておくことが賢明と言えるでしょう。