働きながら年金受給するシニア世代が増加しています。
シニア世代が働きながら年金受給することには、「収入を年金だけに頼らなくてもよくなる」「社会参加を通じて健康促進や暇防止に繋がる」といったメリットがあります。
政府も、企業に対して70歳までの就業機会確保を努力義務化するなど、働きながら年金受給するシニア世代の働き方改革が進んでいることも追い風です。
働きながら年金受給する場合には「在職老齢年金」制度について理解しておくことも重要です。
この記事では、働きながら年金受給するシニア世代の働き方や活用できる制度について解説していきます。
働きながら年金受給するシニア世代が増えている
日本の年金制度では、一般的には65歳になると年金受給できるようになり(国民年金は65歳から、厚生年金は男性64歳・女性62歳から)、65歳以上を高齢者、60歳以上をシニア世代と呼ぶことが多くなっています。
高齢化が急激に進む日本では、働きながら年金受給するシニア世代が年々増加傾向にあります。
総務省統計局によると、2021年の高齢者就業者は909万人となり、過去最多となりました。
※出典:総務省統計局
シニア世代の就業者数は年々増加しており、2011年の571万人から、2021年には909万人と、この10年間で約60%、数にして300万人以上増加したことが分かります。
この背景には、2012年に人口ボリュームの多い「団塊の世代」が65歳になったことがあり、2017年以降は「団塊の世代」が70歳以上になったことから70歳以上の労働者が増加しています。
就業率という点で見てみても、2021年の高齢者の就業率は25.1%となっています。
※出典:総務省統計局
65歳以上の高齢者の就業率25.1%の内訳を見てみると、65~69歳は50.3%、70歳以上は18.1%と、大きな差があることが分かります。
それでもシニア世代以上の全年齢において就業率が年々増加傾向にあるトレンドは間違いありません。
働きながら年金受給するメリット
「働きながら年金受給しているシニア世代が増加している」と聞くと、あまり良いイメージは湧かないかもしれませんが、働きながら年金受給することには大きなメリットもあります。
働きながら年金受給するメリットについて見ていきましょう。
年金受給額が減ることへの対策となる
急激な少子高齢化が進展する日本では、現在の年金制度は持続可能性が難しくなっているということは、全世代が共通して認識している社会問題となっています。
日本の年金制度は、現役世代が拠出したお金を、年金世代に支給する「賦課方式」となっているため、年金を負担する現役世代が少なくなり、年金が支給される高齢者世代が多くなれば、年金制度の持続性は危ぶまれてきます。
今後、日本では、高齢化率は上昇・高止まりする一方で、年金制度を支える現役世代は減少していくことになるため、年金支給額の減少や年金支給年齢の引き上げは不可避と考えるのが現実的です。
※出典:厚生労働省
シニア世代になっても生涯現役で働き続けることによって、年金に加えて労働からもお金を得られれば、年金支給額の減額や年金支給年齢が引き上げられたとしても、お金の心配が軽くなります。
シニア世代になっても働き続けることで、退職から年金受給までの時間を短くすることは、効果的な老後資金対策の一つです。
社会参加することで健康増進や暇防止に繋がる
シニア世代が働くことは、お金の観点からだけではなく、社会参加による健康促進や暇防止といったQOL(生活満足度)の観点から見ても大きなメリットがあります。
2020年に日本労働組合総連合会(連合)が発表した「高齢者雇用に関する調査2020」によると、60歳以降も働くシニアの仕事満足度について、「働き方満足度」は70.3%になったということです。
※出典:日本労働組合総連合会
働き続けるシニア世代に60歳以降も働きたいと思う理由を聞いたところ、「生活の糧を得るため」(77.0%)が最も高くなっていましたが、「健康を維持するため」(46.2%)、「生活の質を高めるため」(33.9%)、「働くことに生きがいを感じているため」(28.8%)、「仕事を辞めてもやることがないから」(24.9%)など、金銭面以外の理由で働き続けるシニア世代も少なくないことが分かります。
ただ、シニアの「働き方満足度」は70.3%と高水準だったものの、「賃金満足度」は44.0%に留まっていることが今後の課題と言えそうです。
働きながら年金が受け取れる「在職老齢年金」とは
シニア世代が年金を受け取りながら働くためには、「在職老齢年金」制度について理解しておくことが欠かせません。
「在職老齢年金」制度とは、60歳以降も企業で働いている人に支給される老齢厚生年金のことで、「年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額」に応じて、老齢厚生年金が一定額支給停止になる仕組みのことです。
具体的には、「老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額」が48万円を超えると、在職支給停止の仕組みが適用されて、厚生年金は一部または全額が支給されなくなります。
ただ、「老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額」が48万円以下なら、老齢厚生年金は全額支給されます。
※出典:日本年金機構
シニア世代が働くときに活用できる「高年齢雇用継続給付」とは
シニア世代になって働くときに懸念されることが、給与が低下してしまうことです。
日本人の平均給与は50代が最も高く、60代以降は下がっていってしまうという統計が出ています。
|
平均給与(男性) |
平均給与(女性) |
50~54歳 |
664万円 |
328万円 |
55~59歳 |
687万円 |
316万円 |
60~64歳 |
537万円 |
262万円 |
65~69歳 |
423万円 |
216万円 |
70歳以上 |
369万円 |
210万円 |
シニア世代になった労働者が60~64歳で利用できる制度として、「高年齢雇用継続給付」制度があります。
高年齢雇用継続給付制度は、雇用保険の被保険者期間が通算5年以上あることを条件に、60歳以上65歳未満の従業員に支給される給付制度です。
高年齢雇用継続給付制度には、「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2つがあります。
「高年齢雇用継続基本給付金」とは
高年齢雇用継続基本給付金は、60歳到達時点の収入とそれ以降の収入を比較して、60歳到達時点の賃金月額が75%未満となっていた場合に支給されるものです。
ただ、高年齢雇用継続給付金の上限額は、「60歳以後の賃金の15%相当額」となっています。
また、高年齢雇用継続給付金を受給している間は、給付額に応じて、年金の一部が支給停止になる場合があるため、詳しくは最寄りの年金事務所へお問い合わせするようにしてください。
「高年齢再就職給付金」とは
高年齢再就職給付金は、60歳で定年退職後に、雇用保険(失業保険)による基本手当を受給し、その後に別の企業に再就職した従業員に支給される給付金です。
高年齢再就職給付金は、雇用保険の基本手当支給日数が100日以上残っていることを条件に支給されます。
また、高年齢再就職給付金と再就職手当の併給はできないことには注意しておきましょう。
働きながら年金受給することはお金と健康の観点からも最高のリタイアメントプランニング
この記事では、働きながら年金受給するシニア世代について解説してきました。
日本では働き続けるシニア世代が年々増加しており、約4人に1人は65歳以上になっても働き続けています。
働きながら年金受給することは、お金の観点からメリットがあるだけでなく、社会参加による健康促進や暇防止といったQOLの観点からもメリットがあります。
働きながら年金受給する場合には「在職老齢年金」制度を理解しておき、「年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額」が48万を超えたら厚生年金が減額または支給停止となることには注意が必要です。
60歳以上になると給料が減ることが懸念されますが、60~64歳が活用できる「高年齢雇用継続給付」についても押さえておくようにしましょう。