国際比較:世界の年金制度と老後資金問題

日本の年金制度は少子高齢化で持続可能性が危ぶまれていますが、年金制度への懸念は先進国共通の問題です。

先進国で年金制度が揺らいでいる背景には、加速する少子高齢化や人口減少があります。

2023年には、少子化対策の優等生として知られるフランスで大規模な年金改革反対デモが発生し、日本でも年金制度の持続のために現役世代の負担が重くなっているため年金改革は不可避の状況です。

この記事では、日本と世界の年金制度の違いについて解説した上で、老後資金問題に向けてできることを考えていきます。

目次

日本と世界の年金制度の違いについて

日本と世界の年金制度について比較してみましょう。

日本と世界の年金制度

主要国の年金制度について見てみると、次の表のようになります。

日本

アメリカ

英国

ドイツ

フランス

スウェーデン

被保険者

全居住者

無業者を除き居住者は原則加入

一定以上の所得のある居住者

居住している被用者は原則加入

無業者を除き居住者は原則加入

一定以上の所得のある居住者

保険料率

・厚生年金:18.3%(労使折半)
・国民年金:月額16,590円

12.4%(労使折半)

25.8%(本人12.0%、事業主13.8%)

18.6%(労使折半)

17.75%(本人7.30%、事業主10.45%)

17.21%(7.0%、事業主10.21%)

支給開始年齢

・厚生年金(※1)
-男性:64歳~
-女性:62歳

・国民年金:65歳~

66歳~
※2027年までに67歳~

66歳
※2028年までに67歳~
※2046年までに68歳~

65歳11か月
※2029年までに67歳~

62歳~
※満額拠出期間を満たさない場合:67歳~

62歳~
※2026年までに64歳~

最低加入期間

10年

40四半期(10年相当)

10年

5年

なし

なし

財政方式

賦課方式

賦課方式

賦課方式

賦課方式

賦課方式

賦課方式

※出典:厚生労働省

※1:日本の厚生年金は、男性は2025年度までに、女性は2030年度までに65歳までに引上げ予定。

年金の保険料率で見てみると、日本の厚生年金は18.3%の労使折半ですが、これは他国と比べても平均的であると言えます。

年金の支給開始年齢は、日本では一般的には65歳からの支給となっていますが、他国では受給年齢引き上げが相次いでおり、この流れを見ると日本でも67歳程度にまで引き上げられても不思議ではありません。

年金の最低加入期間は、日本は10年となっており、これは他国と比較しても長い方です。

主要国の年金の財政方式は、日本を含めていずれの国も賦課方式となっています。

賦課方式とは、年金支給のために必要な財源を、現役世代が払った年金保険料から用意する方式で、イメージとしては現役世代から年金受給世代への仕送りに近いものです。

世界の年金制度の持続可能性は?

主要国の年金制度の持続可能性という観点で考えてみると、いずれの国も賦課方式であるため、少子高齢化社会になると持続可能性が危ぶまれてくると言えます。

主要国について、総人口に占める65歳以上の割合を示す「高齢化率」、女性1人が産む子供の数を示す「出生率」、人口増加割合を示す「人口増加率」を見てみることにしましょう。

日本

アメリカ

英国

ドイツ

フランス

スウェーデン

支給開始年齢

65歳~

66歳~
※2027年までに67歳~

66歳
※2028年までに67歳~
※2046年までに68歳~

65歳11か月
※2029年までに67歳~

62歳~
※満額拠出期間を満たさない場合:67歳~

62歳~
※2026年までに64歳~

高齢化率

28.6%

16.6%

18.7%

21.7%

20.8%

20.3%

出生率

1.30人

1.66人

1.56人

1.53人

1.79人

1.67人

人口増加率

-0.54%

0.30%

0.34%

0.04%

0.09%

0.97%

※出典:国際連合「World Population Prospects」

主要国はいずれも高齢化率が高まってきており、出生率は人口の再生産に必要な2.08人(人口置換水準)より低く、人口増加率も低水準の数字が目立ちます。

その中でも、日本の高齢化率は主要国では最高水準となっている一方で、出生率は低く、人口増加率もマイナスで人口減少となっていることが分かります。

少子高齢化で年金制度が揺らいでいるのは先進国共通の問題

少子高齢化の影響で年金制度の持続性が危ぶまれているのは、先進国共通の問題となっています。

少子化対策の優等生フランスで起きている年金改革反対デモ

フランスは、手厚い子育て支援を始めとする少子化対策が効果を発揮して出生率の回復を実現した、少子化対策のモデル国という話はよく耳にしたことがあるかと思います。

しかし、2023年3月には、フランスで年金の支給開始年齢を62歳から64歳に引き上げる改革に反対して、100万人規模の大規模デモが発生しました。

フランスの直近の出生率は1.79人と、日本の1.30人より多いものの、それでも人口再生産に必要な2.08人(人口置換水準)には及んでいないため、少子化を克服したとは言えません。

一方、フランスの高齢化率は20.8%に達しており、先進国の中で少子化対策の優等生とされるフランスでも、少子高齢化による年金改革は避けられないことが現実となっています。

同様に、手厚い子育て支援や移民政策を実施している北欧の福祉国家スウェーデンでも、年金受給年齢が2026年から64歳に引き上げられる方針となっています。

日本の年金制度は充実しているが現役世代への負担が重くなっている

高齢化率や出生率、人口増加率といった年金制度の持続性において重要なマクロ経済データを見てみると、日本の年金財政は厳しい状況にあると言えます。

今後、日本では、高齢化率は上昇・高止まりする一方で、年金制度を支える現役世代は減少していくことが人口動態の上で確定しているため、年金支給額の減少や支給年齢の引き上げといった年金改革は不可避と考えるのが現実的です。

※出典:厚生労働省

日本でも、年金改革をにおわせる政府の動きはたびたび報じられています。

2022年10月には、国民年金の保険料納付を現行の60歳までから、64歳まで5年延長する案について政府が本格検討に入ったとのニュースが流れました。

2023年には、岸田政権は少子化を解消するために「異次元の少子化対策」を実現しようとしていますが、子ども達が生まれてから年金保険料を納めるようになるまでは20年程度は掛かるため、少子化対策は年金改革への即効薬にはなりません。

現役世代が老後資金の形成を考える上では、年金改革は待ったなしの状況であり、年金の負担増や給付減はあり得たとしても、現在よりも手厚い年金制度を享受できることはないと心得ておいた方がよいでしょう。

年金制度が揺らぐ中で、老後資金問題に向けてできること

日本の年金制度の持続可能性が揺らぐ中で、現役世代が老後資金の形成に向けてできることを押さえておきましょう。

生涯現役でできるだけ長く働くようにする

現在の高齢者は、まだ手厚い年金制度を受けられていますが、これから年金を受給する若い現役世代は、年金制度の劣化は避けられないと考えた上で資産形成を行うことが現実的です。

特に、生涯現役を目指してできるだけ長く働くようにライフプランを設計することは、老後資金を年金だけに頼らないことになるため効果的です。

年金で問題となるのは、定年退職から年金支給までの給料が入ってこない「空白期間」が生じることにありますが、そもそも生涯現役で年金支給まで働けば空白期間もできません。

政府は企業に70歳まで定年雇用することを努力義務化しており、また働き方改革や副業推進、リカレント教育などで生涯現役として働ける制度も充実してきています。

生涯現役で働くことはお金の面でプラスになるだけでなく、社会参加による健康促進や暇防止になるためQOL(生活満足度)の面においてもメリットとなります。

若い時から資産運用をして老後資産を潤沢にする

年金制度には期待できないことから、インデックス投資や米国株投資、不動産投資といった資産運用を始める若い世代が増加しています。

政府は、非課税で資産形成ができるNISAやiDeCoといった投資制度を拡充しており、老後資金の形成に役立てるように推奨しています。

投資にはリスクがあるため、全資産をNISA・iDeCoに投じるような資産運用は推奨できませんが、老後資金を少しずつ積み立てる感覚で資産運用を始めてみるのも年金対策の選択肢になってくることは確かです。

年金制度の危機は先進国共通の問題、老後資金問題は避けて通れない

この記事では、日本と世界の年金制度について解説してきました。

日本の年金制度は、主要国の年金制度と比べて悪くありませんが、出生率や高齢化率、人口増加率といったデータを見てみると、年金制度の持続性は揺らいでいます。

少子高齢化によって年金制度の持続性が揺らいでいるのは先進国共通の現象ですが、日本はそのトップランナーであるため、年金制度改革は不可避と考えるのが現実的です。

老後資金の形成は人生における3大資金の一つですが、現役世代は現在のような手厚い年金制度は期待できないと考えて、生涯現役で働く、NISAやiDeCoを活用するといった防衛策を講じる必要があると考えておいた方がよいでしょう。

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