リタイアメントプランニングとは、定年後のセカンドライフをよりよく生きるための人生計画です。
たったこの十数年だけでも、私たちを取り巻く経済事情は大きく変わりました。
その結果、多くの一般家庭では退職金と年金だけを頼りにしていては、老後破産に陥る恐れすらあるといわれるのが現代です。
ゆとりのある老後を送りたいのであれば誰もが、今すぐにリタイアメントプランニングをして、計画的に貯金や資産運用を進めなくてはいけないでしょう。
そこで当記事では、リタイアメントプランニングの方法を分かりやすく解説します。
「老後資金について真剣に考えなくてはいけないのは分かっているんだけど、何から手をつけたらよいのか分からない……」と、悩んでいる方はぜひご一読ください。
リタイアメントプランニングの重要性
少子高齢社会、平均寿命の延び、物価上昇に対し伸び悩む収入など、現代日本はさまざまな要因から、「真面目に働いてさえいれば老後も安心」といえる時代ではなくなってしまいました。
それこそ以前には『老後2000万円問題』が世間に大きな波紋を呼びましたが、この数字は多くの人にとってリアルな数字であることをご存じでしょうか。
数字の根拠となっているのが、総務省が全国約9,000世帯を対象に実施している「家計調査」における「平均的な高齢夫婦無職世帯(夫65歳・妻60歳)」といった、正確な統計であるためです。
老後に2,000万円が不足するのはある世帯の一例ではなく、現代日本では平均的に起こり得るリタイアメント後の家計事情なのです。
私たちは老後資金の貯蓄に対してもっと自分ごととして考え、真剣に取り組んでいかなくてはいけないことを自覚する必要があります。
参照:市場ワーキング・グループ(第21回)における厚生労働省 提出資料
リタイアメントプランニングの基本概念
リタイアメントプランニングをはじめる前に、どのような考え方で計画するべきか、基本概念を押さえましょう。
十分な老後資金=理想の老後を送るための必要資金
リタイアメントプランニングでは「十分な老後資金を貯めるための計画」を立てることになりますが、ここでいう十分な老後資金とは、以下3つの要素で構成されます。
- 生活に必要な資金
- 万が一のことがあったときのための資金
- 理想のゆとりある老後を送るための資金
生活費や医療費、介護費といった最低限必要な資金はもちろん、生活を豊かにするための資金まで含めて考える必要があります。
1日でも早いプランニングおよび行動が重要
必要な老後資金額2,000万円はあくまで目安ですが、多くの人にとってまとまった金額が必要になることは間違いありません。
しかし何百万や何千万円といったお金をすぐに用意しようと思うと、巨額の元金が必要になるほか大きなリスクを取らなくてはいけないため、一般的にはおすすめできません。
比較的、簡単にできる「リスクを軽減しながらまとまったお金を手に入れるための方法」は、時間をかけることです。
現時点でよほどのお金持ちという訳でもなく、プロとして本格的に資産運用を始めようという訳でもないのであれば、今すぐにリタイアメントプランニングをして、行動を起こしましょう。
1日でも早く動くことが、十分な老後資金を安全に準備するための基本です。
以下では、いよいよリタイアメントプランニングの具体的な立て方をご紹介します。今日から動き始めるための手助けになれば、幸いです。
貯金目標の設定方法
老後資金として貯金目標を設定するときには、以下の手順で進めると分かりやすいでしょう。
- 老後にもらえる年金額を計算
- 老後にかかる生活費を計算
- 老後にかかる医療費や介護費を計算
- 理想の老後に必要な資金を計算
- (1)から(2)(3)(4)を引き、不足額(=貯金目標)を計算
なお不足額を計算する際にはインフレ率も加味できると、より正確に貯金目標を求められます。
将来的なインフレ率を正確に予測することは難しいためあくまで目安ですが、1年あたり1.0~2.0%としてみましょう。
たとえば現在40歳であれば、65歳まで25年の期間があるため、125.0~150.0%を不足額にかけると65歳時点で蓄えておきたい金額が分かります。
年金額や生活費などの計算方法は、以下でそれぞれ解説しているのでぜひ参考にしてみてください。
社会保障と年金の考慮
もらえる年金額を計算するにあたって、まずは自分が加入している年金制度を把握しましょう。
日本の年金制度は、以下のとおり3階建て構造になっています。
- 1階…国民年金
- 2階…厚生年金
- 3階…企業年金、個人年金(個人型確定拠出年金、企業型確定拠出年金、確定給付型年金、年金払い退職給付など)
このうち国民年金は、日本国民であれば誰もが加入しています。
民間企業に勤める役員や従業員、もしくは公務員であれば厚生年金にも原則加入しているでしょう。
そのほか個人的に年金制度に加入、もしくは企業が福利厚生の一環として用意している制度に加入しているのであれば、個人年金や企業年金も該当します。
あなたが加入中の年金制度について、以下でもらえる年金額をそれぞれ計算してみましょう。
国民年金(老齢基礎年金)はいくらもらえる?
国民年金を老齢年金として受け取る場合、受給額は以下の計算式で算出できます。
国民年金の年間受給額(満額)×保険料の納付月数÷480ヵ月
国民年金の年間受給額はその年によって異なるため、正確には日本年金機構からのお知らせをご参照ください。
令和4年4月分からについては、777,800円が満額の年間受給額です。
480ヵ月は20歳から60歳までの40年間にあたります。
つまり40年間ずっと保険料を全額納付していた場合の受給額は、年間777,800円、月額64,816円です。
一方、保険料の納付を免除されていた期間がある場合には、以下のとおり受給額が減額されます。
- 全額免除…免除期間は全額納付時の1/2として計算
- 3/4免除…免除期間は全額納付時の5/8として計算
- 半額免除…免除期間は全額納付時の6/8として計算
- 1/4免除…免除期間は全額納付時の7/8として計算
- 納付猶予制度を活用…免除期間は0として計算
(例)10年間だけ全額免除だった場合の受給額は年間680,575円、月額56,714円(777,800×420÷480=680,575)
厚生年金(老齢厚生年金)はいくらもらえる?
厚生年金を老齢年金として受け取る場合、受給額は以下の計算式で算出できます。
- 平成15年3月までの加入分…期間内の平均標準報酬月額×(7.125÷1000)×期間内の加入月数
- 平成15年4月からの加入分…期間内の平均標準報酬月額×(5.481÷1,000)×期間外の加入月数
厚生年金は保険料に収入(標準報酬月額)が関係するため、受給額に関しても個々で大きな差があります。
令和3年度の平均受給額は年間1,727,580円(月額143,965円)ですが、大まかな目安として、年収別におおよその年間受給額をまとめました。
加入期間はすべて平成15年4月以降として算出しています。
加入期間20年の年間受給額 |
加入期間40年の年間受給額 |
|
年収200万円 |
約219,000円 |
約438,000円 |
年収300万円 |
約328,000円 |
約657,000円 |
年収400万円 |
約438,000円 |
約876,000円 |
年収500万円 |
約548,000円 |
約1,096,000円 |
年収600万円 |
約657,000円 |
約1,315,000円 |
年収700万円 |
約767,000円 |
約1,534,000円 |
なおこちらの表では、受給者に65歳未満の配偶者および18歳未満のお子さまがいないケースを想定しています。
もしも該当する扶養者がいる場合には、加給年金が追加されます。
そのほか年金制度とは
個人年金や企業年金に追加で加入している場合には、その分の受給額も見積もる必要があります。
年金制度ごとに受給額や仕組みが異なるため、詳しくは各制度の実施企業に問い合わせましょう。
制度や勤め先によっては、目安額を公式ホームページや給与明細に明示しているケースもあります。
リタイアメント後の生活費の見積もり
ここではリタイアメント後にかかる生活費の見積もり方について、順を追って解説します。
食費や水道・光熱費などといった一般的な生活費のほか、マイホームのリフォームやお子さまへの結婚資金援助など、ライフイベントにかかる費用も見積もるのがポイントです。
リタイアメント後の暮らしを具体的に想像しよう
まずはリタイアメント後の暮らしをなるべく具体的に想像してみましょう。
マイホームはあるのか、誰と暮らしているのか、今と比べてどのような暮らしにしたいのか……まずは身近な衣食住のあたりから考えて、想像をふくらませるのがおすすめです。
箇条書きで構わないので、思いついたことからどんどんと紙に書き出していくとよいでしょう。
生活費の見積もり方法
リタイアメント後の生活費を見積もるにあたって、まずは現在の生活費を以下の項目に分けて洗い出してみましょう。
- 食費
- 住居費
- 水道・光熱費
- 家事用品費
- 洋服(履き物含む)費
- 交通費
- 通信費
- 娯楽費
- 交際費
- そのほか
続いて、思い描いているリタイアメント後の暮らしと現在を比較してみて、各項目の変化を予想します。
たとえば「老後にはローンを完済しているから住居費は大きく減るだろう」や、「時間ができた分、あちこち出掛けたいから交通費はむしろ増えそう」といった具合です。
参考までに、令和4年度の平均支出総額もご覧ください。
- 夫婦2人世帯(65歳以上・無職)…月額236,696円
- 単身世帯(65歳以上・無職)…月額143,193円
なおこちらのデータでは、家賃やローン返済費用が住居費に含まれていないため、参考にする際にはご注意ください。
参照:総務省統計局 家計調査報告 2022年(令和4年)平均結果の概要
ライフイベント別費用の見積もり方法
リタイアメント後に起こり得るライフイベントおよび費用目安をざっとまとめました。
ライフイベント例 |
費用目安 |
マイホームのリフォーム |
一般的には100万~300万円ほど、高ければ1,000万円以上になることも |
住み替え |
一般的には2,000万~3,000万円ほど、マイホームの売却代金で工面できるかも含めて計算を |
車の買い替え |
一般的には50万~200万円ほど、何年ごとに買い替えするかも検討して |
子どもの結婚 |
一般的にはお子さま1人あたり100万~200万円ほど |
孫の出産 |
一般的には1人あたり5万~10万円ほど |
海外旅行をはじめ大型旅行 |
1回あたり50万~300万円ほど、行きたい場所や回数で目安費用の計算を |
資格取得をはじめ自己研鑽 |
数万~200万円ほど、学びたいことや学び方で目安費用の計算を |
こちらも参考にして、リタイアメント後に起こり得ることやしたいことを費用とともに明確にしましょう。
ヘルスケアと長期介護の計画
厚生労働省の発表によると、令和元年時点で平均寿命と健康寿命の差は男女ともに10年前後となっています。
つまり高齢期にはなんらかの症状により保険医療サービスもしくは介護サービスを利用するのが、現代では一般的です。
貯蓄はもとより、生命保険も活用し、万が一のときの必要資金を用意しましょう。
老後にかかる医療費の目安
参考までに、令和4年度における医療費の平均額をチェックしてみましょう。
- 夫婦2人世帯(65歳以上・無職)…月額15,681円
- 単身世帯(65歳以上・無職)…月額8,128円
たとえば上記の医療費が65~95歳までかかったとしたら、夫婦2人世帯では約565万円、単身世帯では約293万円が必要になります。
しかし医療費は個人差が大きいため、平均額があれば十分とは言い切れません。
実際、厚生労働省が平成22年度に推計したデータでは、65~99歳までにかかる医療費は1人あたり1,382万円ほどになるといわれています。
万が一にどこまで備えるかは個人の考えや状況次第であるため、これらの金額を目安に必要額を見積もってみましょう。
参照:総務省統計局 家計調査報告 2022年(令和4年)平均結果の概要
介護費の目安
参考までに、在宅介護と施設介護の2パターンで介護費用の平均額をチェックしてみましょう。
- 在宅介護…月額48,000円
- 施設介護…月額122,000円
介護費は利用するサービスや、要介護度によっても費用負担が大きく異なります。
まずは利用したい介護サービスを調べてみて、その利用額に4~9年をかけて見積もる(※4~9年ほどの介護期間となる方の割合が多いため)とよいでしょう。
公的施設の利用であれば月額5万~15万円ほど、民間施設であれば月額10万~30万円ほどが相場だといわれています。
参照:生命保険文化センター 介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?
投資戦略とリスク管理
リタイアメント後の収入と支出目安を明確にし、貯金目標を設定したなら、貯金のための行動を起こしましょう。
老後資金はある程度まとまった金額が必要であるため、方法としては投資による資産運用が適しているでしょう。
そこでここでは投資初心者向けに、投資の基本とおすすめの方法をご紹介します。
投資の基本は「長期・積立・分散」
初心者が投資を始めるときには、リスクを減らすことに注力するのが鉄則です。
「長期・積立・分散」の3つを常に頭において、商品選びおよび運用を心掛けましょう。
長期
最低でも10年以上、できるだけ長期間にわたって金融商品を保有し続けましょう。
多くの金融商品は短期間で見ると大きなプラスとマイナスをくり返し、運用益が安定しません。
しかし金融商品は国や企業が事業を拡大し、利益を上げるために運用されているものであるため、長い目で見るとプラスになるのが一般的なのです。
さらに長期投資では「福利効果」といって、運用益を引き出さずに投資し続けることで元手が増えるため、投資を続ければ続けるほど多くの利益を得やすくなります。
積立
投資の方法としては、コンスタントに一定額もしくは一定数を投資する積立を選びましょう。
まとめて一気に購入しないことから、「購入時期を分散」することでリスクを減らせます。
少額からスタートできるサービスが多い点でも、積立投資は初心者におすすめです。
分散
積立投資は「購入時期の分散」につながるといいましたが、投資はさまざまな要素を分散させることによってリスクを減らせます。
なかでも「購入商品の分散」は代表的な方法です。
たとえば「大きなリターンを期待できるがマイナスも出やすい商品」と「リターンは小さいが基本的にプラスとなる商品」を併せて購入しておけば、前者でマイナスが出たときには後者で補えます。
おすすめの投資方法
「iDeCo」と「つみたてNISA」は、長期・積立・分散の3つを備えているため、投資初心者におすすめの制度です。
iDeCo
iDeCoは個人型確定拠出年金制度であり、制度を利用して金融商品に投資すると、年金形式で積み立てた掛金および運用益を受け取れます。
投資を続けている間は運用益に税金が一切かからないほか、掛金がすべて所得控除の対象となるため、税金対策にもおすすめです。
ただし年金制度であることから、60歳になるまでは引き出しが原則できません。
口座管理手数料がかかる口座(原則、解約不可)を開設する必要もあります。
貯金が心もとないうちは、自由に引き出せるつみたてNISAを選ぶか、はたまた「強制的に貯金が可能」と考えてiDeCoを選ぶか検討するとよいでしょう。
つみたてNISA
つみたてNISAは一般の方が投資を始めやすくするために作られた制度であり、投資を始めて20年間は運用益が非課税です。掛金の所得控除はありません。
しかし引き出しがいつでも可能であるほか、つみたてNISAの対象となる投資商品は金融庁により厳選された商品に限られているのがポイントです。
比較的リスクの少ない安定性の高い商品から選ぶことになるため、投資運用の知識がない方でも気軽に始めやすいでしょう。
口座管理手数料の負担もありません。
遺産計画と税務戦略
相続法が大きく改正され、これまでよりも正当に資産を相続しやすくなりました。
しかしその分、より多くの人が相続に関わるようになると想定されています。
また現金のまま資産を増やすことが難しい現代では、さまざまな形で資産を保有する方が増えるでしょう。
以上のことから、今後は一般家庭においても相続問題が起こりやすくなると考えられます。
リタイアメントプランニングと併せて、遺産計画を練ることも進めましょう。
財産をどのようにしたいのか考えよう
保有資産をすべて洗い出したうえで、誰にどのように遺したいのかを考えてみましょう。
まずは自分の気持ちを優先して考えて構いませんが、相続は大きな資産が動くことも多いため、希望どおり進めるのが難しいケースもあります。
税金面や争族へ発展しないかなども含めて、検討しましょう。
検討するうえで知識が不足している場合には、弁護士やFPに相談するのがおすすめです。
希望が固まったら、後は希望に合わせて財産遺言書の作成や、家族信託、生前贈与など具体的な方法を決めていきましょう。
相続税や贈与税の節税対策も重要
相続税や贈与税は、さまざまな制度を利用することによって大幅に節税が可能です。
ただしほとんどの制度は事前の準備が必須であるため、遺産計画を立てると同時に節税対策も進めましょう。
節税に活用できる制度はとても多くあり、資産の種類や状況に応じて適切な制度が異なります。
税理士やFPに相談し、アドバイスを求めるのがよいでしょう。
定期的なリタイアメントプランの見直し
リタイアメントプランは一度立てて満足するのではなく、定期的に見直しましょう。
私たちを取り巻く経済事情は刻一刻と変化するうえ、結婚や出産、病気にけがなど、よくも悪くも人生は何が起こるか分からないためです。
そのときどきに合わせてぴったりのリタイアメントプランを調整しなくては、いずれ破綻してしまう恐れがあるでしょう。
しかし、リタイアメントプランの見直しは時間も手間もかかります。そこでおすすめしたいのが、FPの利用です。
「一人ひとりが人生計画を練り、そのうえで資産運用することが重要だ」という考えがすでに普及している各国では、すでにFPを積極的に活用し、未来に備えていることをご存じでしょうか。
金融教育が遅れている日本ではありますが、自分の手で資産を増やし、守っていかなくてはいけない時代はすでにきています。
ゆとりある老後を送りたいのであれば、今すぐ行動を起こしましょう。